俺様専務とあたしの関係
義理の弟
「章人専務、ジェームス様がご来社されました」
「ああ、分かった。すぐ行く」
ジャケットを羽織り、身を翻す様に専務室を出る章人の後ろを、離れない様について行く。
会社では、あたしたちはあくまで“専務と秘書”。
家での甘い雰囲気を、出してはいけない。
それは、章人だって心得ている。
応接室にお茶を持っていきながら、流暢に英語で会話をする章人に、情けなくもときめいたり…。
今まで、仕事以外に目を向けなかったあたしは、すっかり変わってしまった。
「失礼いたします」
お辞儀をし、部屋を出て行こうとした時、あたしの業務用携帯が鳴る。
マナーモードにしていたから、それほど目立たなかったにしても、章人はチラッとこちらに目を向けたのだった。
誰だろう。
大方の取引先は、この時間は来客があると知っているから、電話なんてかけてこないのに。
「もしもし」
部屋を出てから電話に出ると、
「美月さん?ごめんね急に。今、大丈夫?」
それは、和久社長からの電話だった。
「和久社長!?」
何でこの番号を知っているの!?
と聞きそうになって、いつだったかここへ来た時に、番号を伝えた事を思い出した。
「兄貴は来客中なんだっけ?」
「はい。お急ぎでなければ、後ほどご用件をお伝えしますが…?」
「いや、今日は美月さんとアポを取りたくて電話したんだ。夜に会えないかな?」