俺様専務とあたしの関係


すると、奥様は章人をジッと見つめた。


「そうよ。奈美子はね、あなたを産んですぐに亡くなったの」


奥様がそう言うと、社長も後を続ける。


「章人、お前を産んだ母さんはな、本当は子供を産んではいけないと、お医者さんから言われていたんだよ」


「え…?」


これには、章人だけでなく、和久社長も絶句している。


そして、あたしはすっかり、話しに聞きいっていた。


「母さんは、元々体に弱い部分があって、子供を産むとしたら、命を引き換えに…と忠告をされていたんだが…」


社長も言葉に詰まり、涙を堪えている。


「私は、情けない事に中絶を勧めた。だけど、母さんは断固として拒否をした。そして、本当に命と引き換えに、章人を産んだんだ」


「何でだよ…。何でそんなにまでして、オレを産みたかったんだ?だいたい、子供なんて作らなければ良かっただろ?」


真実に戸惑う様に、章人は声を震わせている。


そして、目を伏せてしまった社長をフォローするかの様に、奥様が口を開いたのだった。


「それはね、奈美子が和也さんとの赤ちゃんを欲しがったから。自分の命を捨てでも、和也さんとの愛の証を残したかったのよ」


“愛の証”


その言葉の重みに、あたしはただ呆然とするだけ…。


「なあ、母さん。兄貴の本当のお母さんを、オヤジも母さんもそれだけ大事に思ってて、何で二人は結婚してオレが生まれたんだよ?」


それまで黙っていた和久社長が口を開いた。


和久社長の立場なら、そう思っても当然だ。


「それはな、二人で話し合ったんだ。奈美子の分まで家族を作ろう、章人を育てて兄弟を作って、奈美子が思い描いていた未来を、代わりに作ろうと」


清々しいくらい、社長はそう言った。




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