俺様専務とあたしの関係
蒼衣さんを引き留めて、どうするっていうんだろう。
あたしの誘いに素直に応じた蒼衣さんは、章人の家へやって来た。
「あの、お邪魔じゃないんですか?」
ダイニングテーブルに用意された晩御飯に気付いて、蒼衣さんは申し訳なさそうに言った。
「いいんです。今夜はたまたまで、いつもはここまでしないので」
あたしは急いで紅茶を用意すると、ソファーに座っている蒼衣さんに出す。
すると、それを見た蒼衣さんが少し嬉しそうな顔をした。
「紅茶、お好きなんですよね?」
“お好きなんですか?”と聞かなかったのは、あたしの勘で。
蒼衣さんの表情は、あたしに一つの不安を生んだから。
「あ、もしかして聞かれていますか?これ、私の一番好きな味なんです」
やっぱり…。
ずっとおかしいと思ってたのよね。
あんなに好きだった蒼衣さんの思い出が、この家には無さ過ぎる。
それを変に思っていたけれど、こんな身近なところにあったんだ…。
「章人は紅茶嫌いなのに、これだけは一緒に飲んでくれていて…」
懐かしそうに目を細めて、蒼衣さんはゆっくりと紅茶を口にした。
「おいしい…。美月さんて、紅茶を入れるのがお上手なんですね」
「えっ?何で、あたしの名前を?」
動揺するあたしに、蒼衣さんは優しい笑顔を浮かべた。
「この間、章人から電話をもらいました。結婚式に行くと…。その時に美月さんの話を聞いたんです」
そうだったんだ…。
「今、章人と一緒に暮らしているんですか?そこまでは聞いてなくて…」