俺様専務とあたしの関係
あたしの言葉に、章人はためらいを見せずエレベーターへ向かうと蒼衣さんを追いかけた。
一人残された部屋の前で、あたしはただ呆然とするだけ。
どこかで引っかかっていた心のモヤモヤが、一つずつ、一つずつ解けていく感じだった。
ねえ、章人。
あたしたち、ずっとずっと同じを思いを抱えたまま、別々の道を生きてきたんだよね。
誰かから、本気で愛されたくて…。
そしてその人を探していて。
その道の途中で、あたしたちは出会った。
お互いに惹かれ合った事は事実だとしても、探し求めていた“愛してくれる人”とは、違っていたんだと思う。
「バイバイ、章人」
戻ってくる前に、急いでここを出て行こう。
もしかしたら、戻って来ないかもしれないけれど、このまま関係は続けられない。
それほどたくさんあるわけでない荷物を、スポーツバッグへ急いで詰め込むと、あたしは章人の家を後にした。
エレベーターの中で、情けなくも涙が溢れてくる。
心の中にいるもう一人の自分が、自分を笑っていた。
どうして、行かせたのよ?
黙ってればいい事まで、何で話したのよ。
って…。
だってね、あたしも好きな人には、心から好かれたいの。
誰かを想う気持ちを押し殺して、好きな振りをされたんじゃ余計に辛い。
だから、あたしは話した。
蒼衣さんに口止めをされた事を話したのは、ルール違反だったかもしれないけれど…。
少しだけ温かい夜風が吹き、夜空を見上げてみたけれど、ネオンの明るさで星は見えない。
ただ、涙が頬を伝って流れてくるだけだった。