俺様専務とあたしの関係


あたしの言葉に、章人はためらいを見せずエレベーターへ向かうと蒼衣さんを追いかけた。


一人残された部屋の前で、あたしはただ呆然とするだけ。


どこかで引っかかっていた心のモヤモヤが、一つずつ、一つずつ解けていく感じだった。


ねえ、章人。


あたしたち、ずっとずっと同じを思いを抱えたまま、別々の道を生きてきたんだよね。


誰かから、本気で愛されたくて…。


そしてその人を探していて。


その道の途中で、あたしたちは出会った。


お互いに惹かれ合った事は事実だとしても、探し求めていた“愛してくれる人”とは、違っていたんだと思う。


「バイバイ、章人」


戻ってくる前に、急いでここを出て行こう。


もしかしたら、戻って来ないかもしれないけれど、このまま関係は続けられない。


それほどたくさんあるわけでない荷物を、スポーツバッグへ急いで詰め込むと、あたしは章人の家を後にした。


エレベーターの中で、情けなくも涙が溢れてくる。


心の中にいるもう一人の自分が、自分を笑っていた。


どうして、行かせたのよ?


黙ってればいい事まで、何で話したのよ。


って…。


だってね、あたしも好きな人には、心から好かれたいの。


誰かを想う気持ちを押し殺して、好きな振りをされたんじゃ余計に辛い。


だから、あたしは話した。


蒼衣さんに口止めをされた事を話したのは、ルール違反だったかもしれないけれど…。


少しだけ温かい夜風が吹き、夜空を見上げてみたけれど、ネオンの明るさで星は見えない。


ただ、涙が頬を伝って流れてくるだけだった。




< 150 / 194 >

この作品をシェア

pagetop