俺様専務とあたしの関係
デスクへ着くとすぐに専務室のドアが開き、章人が大股で近付いてきた。
「美月、オレは納得出来ない。ちゃんと話してくれないか?」
「やめてください、こんな場所で。誰かに聞かれたら、どうするんですか?」
あたしは、パソコンに目を向けたまま、淡々と答える。
すると、キーボードを打っていた腕を、痛いくらい強く掴まれたのだった。
「ちょっと、何するのよ!」
思わず、章人の方へ顔を向けた瞬間、あたしの唇は塞がれる。
甘い香りのキスは、心を動かすには充分過ぎるけれど、あたしは何とか章人の体を押し返した。
「やめてください。人に見られたら、大変ですから」
「構わないよ。その時は言えばいいだろ?オレたちは、恋人同士なんでって」
「いいわけないじゃないですか!あたしは迷惑です!」
つい、声を荒げたあたしに、章人は静かな口調で言ったのだった。
「お前の言っている意味が、全然分からない。ちゃんと、説明くらいはしろよ…」
そして、ゆっくりと身を翻すと、専務室へと戻って行った。
「ごめんね…」
独り言の様に、ポツリと呟く。
届いてはいけないその言葉。
あたしは、やっぱり弱虫だった。
怖くて、信じ切れなくて…。
どうしても、自信が持てない。
愛されているという自信が…。