俺様専務とあたしの関係
それから毎日、章人と顔を合わせるも、もう何も言ってこない。
昼間は上司と部下の割り切った関係に戻り、夜や休みの日の章人の行動は、もうあたしには分からなかった。
笑顔をお互い見せる事もなく…。
ただ、あたしを“美月”と呼ぶ言い方だけは変わっていなかった。
そんな風になってから一ヶ月後、久しぶりに章人が業務以外の話しをしてきたのだった。
「美月、蒼衣から婚約解消をしたって連絡があったよ」
定例の資料を手渡して、専務室を出ようと身を翻したあたしは、その言葉に思わず振り向いた。
「本当ですか…?」
「ああ。美月にお礼を言っておいて欲しいってさ」
お礼…?
立ち止まったままのあたしに、章人は淡々と言った。
「蒼衣から聞いた話を、オレに言った事を感謝してた。お陰でちゃんと秀二と向き合う事が出来たって」
「そうですか…。それなら良かったです。あたし、自分勝手な事をしたので」
あの後追いかけた章人と、蒼衣さんはちゃんと話が出来ていたんだ…。
少しの動揺はあるけれど、あたしは気持ちを悟られまいと、会釈をして今度こそ部屋を出ようとした時、
「美月、オレはお前の気持ちを尊重する」
と、章人が言ってきたのだった。
「え?どういう意味ですか?」
すると、デスクに座ったままの章人は、表情一つ変えずに言ったのだった。
「冷静に考えれば、美月の考えている事は分かるから。オレたち、ちゃんと終わりにしよう」