俺様専務とあたしの関係
退職をしてからの半年間は、仕事を探しつつも気分が乗らなく、本当に骨休めをしていた気がする。
両親との会話は相変わらず少ないけれど、休日に出掛ける事は前より増えた。
「お母さん、少し出てくるわね」
「行ってらっしゃい」
穏やかな午後、あたしは家を出ると当てもなく歩く。
実家は、のどかな場所にあり、家の数こそ多いけれど、街の雰囲気とは正反対なくらいに静かな所だった。
子供の頃は空き地も多く、ひとけのあった場所にも家が建ち並び、かえって静かになっている。
滅多に車も通らない県道沿いを、歩いていた時だった。
突然のクラクションと共に、一台のシルバーの車が止まったのだった。
セダン型の車だけれど、まるで見覚えがない。
少し警戒しつつ、足を止めると運転席が開いて男の人が降りてきた。
「美月さん!久しぶり!」
「和久社長!?どうしてここに!?」
思わぬ人の登場に、あたしは思わず声を上げたのだった。
「久しぶりだねぇ美月さん。元気だった?あんまり変わってないね?」
陽気な笑顔を浮かべると、和久社長はあたしに早口でそう話した。
「和久社長こそ…。それよりも、どうしてここに?」
「ああ、オレはね仕事だよ。前に言ったろ?現場仕事が多いって」
こうやって改めて聞いていると、声が章人に似ている。
ときめく自分に気付きながらも、あたしは平静を装った。
「そうでしたね。和久社長もお元気そうで。それでは…」
これ以上、思い出すのは辛くて、逃げる様にその場を立ち去ろうとした時、
「蒼衣さん、来月結婚するんだよ。未来の社長夫人」
と、和久社長が声をかけてきたのだった。