俺様専務とあたしの関係
立ち尽くすあたしの手を引っ張る様に、お母さんは部屋へ促した。
「専務さんよ。あなたの元上司だった方がお見えなのよ。急いで!」
慌てるお母さんを見ながら、携帯の電源を切っていた事に気付いた。
「ね、ねえ。いつから来てるの?」
「1時間ほど前よ。今、和室にいらっしゃるから、ほら急いで!」
小走りに一階奥の和室へ向かう。
8畳ほどの和室には、真ん中にテーブルがあり、窓からは我が家のそれほど立派でない庭が見える。
そこに、お父さんと向き合う様に章人が座っていたのだった。
突然の事過ぎて言葉を失うあたしに、章人は変わらない穏やかな笑みを浮かべて声をかけてきた。
「美月、久しぶりだな」
半年ぶりの生の声に、胸が締め付けられるくらいにキュンとなる。
「お、お久しぶりです専務…」
軽く頭を下げると、お父さんがゆっくりと口を開いた。
「美月は、章人さんとお付き合いをしていたんだな?」
その口調は、驚きとそして優しさが混じっていた。
「うん…」
そうか。
その話をしたのね。
特に隠すつもりはなかったけれど、照れ臭くて言い出せていなかった。
「とにかく、章人さんの隣に座わりなさい。聞いたよ。結婚の事を…」
結婚?
ああ、蒼衣さんとの結婚の話に来たんだ。
きっと、和久社長から、あたしに会った事を聞いて来たに違いない。
それにしても、どうして家の場所まで分かったんだろう。
あの時は、そこまで話してないのに…。
「結婚…。あたしも知ってます」
ゆっくりと、少し離れて座ると章人を見つめた。
“おめでとうございます”
それを言わなきゃと思っていると、お父さんが驚いた声で、
「美月、知っていたのか?」
と聞いてきた。