俺様専務とあたしの関係
幸せへの一歩
「美月さんと、また会えて良かった。これで、少しは借りが返せたかな?」
章人のマンションに戻って初めての休日、和久社長があたしに会いにやって来たのだった。
「何が借りだよ。お前は、用が済んだら帰れよ?」
キッチンでお茶の準備をしている章人に、和久社長は生意気そうに、ソファーから見上げるように顔を上げた。
「なんだよ兄貴。少しは、二人の気持ちの盛り上がりに貢献したろ?」
「ねえ、和久社長。どういう意味なの?」
あたしが聞くと、和久社長は笑顔を見せた。
「ほら、美月さんに会った日の夜にさ、オレ兄貴に話したんだよね。美月さんは、楽しそうで幸せそうだったよって」
「何でそんな事を…?」
そんなそぶりを、見せたつもりはなかったけどなぁ。
「そういう風に言った方が、兄貴が焦るだろ?実際、美月さんに彼氏が出来たんじゃないかって焦ってたし」
「おい!和久、余計な事を言うなら帰れ!」
顔を赤くした章人は、お茶を持って来てあたしの隣に座ると、乱暴にカップを置いた。
「分かった、分かった。これを飲んだら帰るよ」
笑いを堪えながら、和久社長は熱いお茶をノドへ流し込んだ。
「それから、これを渡しとくね」
と言って差し出され物は、正真正銘の蒼衣さんからの結婚式の招待状だった。
「美月さんに遠慮したのかな?兄貴宛てのも、実家に届いたらしいから」
「ありがとう」
少し笑顔になり、章人はそれを受け取った。
「美月の話しをしたからな。一緒に行こう、今度こそ」
あたしを見つめる瞳に、ゆっくりと頷いた。
もう、不安になるものなんてない。
和久社長は“ごちそうさま”と言うと、手を振って部屋を出て行ったのだった。