俺様専務とあたしの関係
あたしは何も返事が出来ないまま、黙って車窓から見える夜の街に目を移していた。
無意識の内に、専務に電話をかけていたのよね…。
あの時、恐怖でいっぱいだったあたしの頭に、真っ先に浮かんだ顔は、専務だった…。
何でだろ。
何で専務しか思い浮かばなかったんだろ…。
車で走ること20分、中心地から少し離れた、でも駅前の便のいい場所に専務の家はあった。
「ここって、有名なマンションですよね!?」
建物地下駐車場へ車は降りていきながら、あたしは興奮した声を上げる。
「有名…?まあ、そうかもな」
アッサリ言ってくれるけど、こんなあたしだって知ってるわよ。
別名“億ション”と呼ばれるこのマンションを。
最低でも販売価格が一億はするという理由から、こんな言葉が使われるらしいけど…。
「さすが専務ですね。まさか、ここで一人暮らしをされてるんですか?」
「そうだよ?何を驚いてるんだよ、さっきから」
顔をしかめて言うけれど、普通は驚くって!
よくよく注意して見ると、駐車されている車は、高級車ばかりだ。
「やっぱり、専務は別世界の方って気がします…」
すっかり“異世界”に酔ったあたしは、深いため息をついたのだった。