俺様専務とあたしの関係


すると、専務は優しく笑顔を浮かべて、もう一度強く抱きしめてきた。


「ありがとう」


“ありがとう”なんて言われるほどの事じゃないのに…。


でも、専務にとっては特別な事なのかもしれない。


そういえば、絢が言っていたよね。


専務にも事情があるって…。


あれって、一体どういう意味なんだろう。


「美月、何を考えてた?」


「えっ?いえ…。別に何も…」


知りたい…。


なぜだか分からないけれど、専務の事情ってやつを知りたい。


でも、今聞いたところで誤魔化されるだけだもんね。


気にはなるけれど、まだ聞かないでおこう。


そう思って、はぐらかしたあたしの唇に、専務はキスをした。


「美月…。美月…」


ほら、また名前を呼んでる。


ああ、分かった。


専務にとって、名前を呼ぶ事には特別な意味があるんだわ。


それが何かは今は分からない。


だけど、それはとても大切な何か…。


過去に何かあったの?


いつか、あたしにも話してもらえるのかな…。


絢が知っているみたいに。


そうだ…。絢も“章人専務”って、名前で呼んでたっけ。


やっぱり、何か意味があるのね。


専務と唇を重ね合いながら、あたしはそんな事を考えていた。


ただの俺様で軽い人だと思っていたのに…。


違うの…?


本当のあなたは、誰?




< 69 / 194 >

この作品をシェア

pagetop