俺様専務とあたしの関係
仕事が何より落ち着く。
…はずだったのに!
「それじゃ、美月。今夜は接待だから、お前も来るように」
「分かりました…」
会社へ向かう車内で、専務は広げた資料の下から、あたしの手を握ってくる。
もし、ここが二人きりなら、遠慮なく抗議をするところなんだけど、あいにく運転しているのは別の人。
そう、専務ともなると“重役出勤”で、お迎えがやって来るのだ。
60代くらいの品のあるオジサマが、まさかあたしたちが怪しいだなんて夢にも思っていないはず。
だからこそ余計に、あたしも普通にしていないといけないのだ。
もう!
こんなの、ただのセクハラじゃない。
落ち着くどころか、緊張しっぱなし。
「それでは、これは収めますので…」
早いとこ資料をしまおう。
と思ったのに…。
「見てるから置いておいて」
そう言われ、収めるに収められない。
確信犯だわ。
絶対に見ていないもん!
見ていないのに置いておけだなんて…。
ただ手を握りたいから、に決まってるじゃない。
黙ったまま軽く睨むと、専務はわざとか、表情一つ変える事なく視線を資料に落とした。
そして案の定…、会社に着くまで専務は、ずっとあたしの手を握りしめていたのだった。