俺様専務とあたしの関係


仕事が何より落ち着く。


…はずだったのに!


「それじゃ、美月。今夜は接待だから、お前も来るように」


「分かりました…」


会社へ向かう車内で、専務は広げた資料の下から、あたしの手を握ってくる。


もし、ここが二人きりなら、遠慮なく抗議をするところなんだけど、あいにく運転しているのは別の人。


そう、専務ともなると“重役出勤”で、お迎えがやって来るのだ。


60代くらいの品のあるオジサマが、まさかあたしたちが怪しいだなんて夢にも思っていないはず。


だからこそ余計に、あたしも普通にしていないといけないのだ。


もう!


こんなの、ただのセクハラじゃない。


落ち着くどころか、緊張しっぱなし。


「それでは、これは収めますので…」


早いとこ資料をしまおう。


と思ったのに…。


「見てるから置いておいて」


そう言われ、収めるに収められない。


確信犯だわ。


絶対に見ていないもん!


見ていないのに置いておけだなんて…。


ただ手を握りたいから、に決まってるじゃない。


黙ったまま軽く睨むと、専務はわざとか、表情一つ変える事なく視線を資料に落とした。


そして案の定…、会社に着くまで専務は、ずっとあたしの手を握りしめていたのだった。




< 71 / 194 >

この作品をシェア

pagetop