俺様専務とあたしの関係


しばらく抱きしめ合っていると、迎えの車が到着した様でチャイムが鳴った。


「あ、来たな…。残念だけど、もう行こう」


ゆっくり離した章人は、あたしのおでこにキスをする。


「章人…」


あたしは確かめる様に、その名をもう一度口にした。


すると、章人は満面の笑みを浮かべたのだった。


「ほら、名前で呼び合うと、もっと近くなった気がするだろ?」


「うん…」


小さく頷いたあたしに、手を差し出す。


「玄関ホールまで、手を繋ごう」


大きくて、あたしの手なんて簡単に包み込みそう。


その手にゆっくりと、自分の手の平を重ねる。


まるでオママゴトみたいだけど、それを居心地良く感じていた。


少し不安はあるけれど、拒むだけの勇気もない。


握られた手に温もりを感じながらエレベーターに乗り込むと、ここでも章人はあたしにキスをした。


「もっともっと、美月とキスをしたいのにな…」


「うん…。あたしも…」


好きになる事が怖い。


深く深く、ハマっていく事が怖い。


だけど、章人のキスだけは止めて欲しくない。


このキスは、心の奥底まで、固まった気持ちを溶かしていくから…。


素直になったあたしを、章人は今までにないくらい優しい笑顔で見つめると、息も止まるくらいの激しいキスを続けた。


エレベーターの扉が開くその瞬間まで…。




< 91 / 194 >

この作品をシェア

pagetop