『短編』しあわせの条件
「……だって。先輩が僕を誘惑したんですよ?」
その一言に、気絶しそうになった。
わたしが?
わたしがなんで平木くんを誘惑するわけ?
「なによ、その嘘」
「嘘じゃないですよ。だって、本当はすごくさみしい、って言って僕に……」
そこまで言って、平木くんは口をつぐんだ。
なによ。
なんでそんな中途半端なところで言いよどむのよ。
わたし、何したわけ?
「僕に、なに!?」
苛立ちに任せて叫ぶと、平木くんは大きく息を吸い込み。
「キス……」
と呟いた。
平木くんは俯いたまま、ただただ申し訳なさそうにしている。
わたしは、はぁ、とため息をつき。
「悪酔いしたわたしのせいね。ごめんなさい。今日のことはお互い忘れましょ。事故ってことで。さぁ、わたしはもう帰るわ。服着るから」
一気にまくし立て、床に散らばっている服に手を伸ばそうとした時。
平木くんがわたしの手首をぎゅっと掴んだ。