『短編』しあわせの条件
「どうしたの、浮かない顔して」
トオルさんは、ナイフとフォークの手を止めた。
今日のディナーはフランス料理。
目の前には、上質のサーロインステーキが置かれている。
「う、ううん。なんでもない」
慌てて首を横に振って笑顔を作った。
「悩みごと?」
「う、ううん。大丈夫大丈夫。ほんと、なんでもないから」
「そう。ならいいんだけど。僕で力になれることなら何でも言ってよ。相談にのるから」
そう言って、穏やかな笑みをわたしに向ける。
「ありがとう」
そうよ。
トオルさんだって優しい。
平木くんよりお金持ちで、大人なの。
心が揺れるなんて、あり得ない。