『短編』しあわせの条件
週明けの月曜日。
あの事件以来初めて平木くんに会わなくてはならなかったけど、彼は何事もなかったようにいつもどおり「おはようございます」と声をかけてくれた。
相変わらず寝癖は直っていないし、身だしなみもいまいちの、いつもの平木くんだった。
だけど。
意識してしまう。
酔っていたとはいえ、覚えていないとはいえ、わたしは彼を自分から誘惑した(らしい)のだから。
しかも。
「本当はすごく寂しい」なんてことを、ぶちまけてしまうなんて。
ずっと見て見ぬふりをしてきた気持ちを、ぶちまけてしまうなんて。
明らかに、今までと違う目で彼を見ている自分に気づいていたし、いつの間にか平木くんを目で追っている自分にも、気づいていた。
仕事はてきぱきとこなす彼。
受話器口で頭を下げている彼。
机で突っ伏している彼。
社員食堂で牛丼を頬張っている彼。
女子社員と談笑している彼。
そして、わたしと会話している時の彼。
彼のすべてが愛しく思える。
そんな自分に、動揺した。