『短編』しあわせの条件




週明けの月曜日。



あの事件以来初めて平木くんに会わなくてはならなかったけど、彼は何事もなかったようにいつもどおり「おはようございます」と声をかけてくれた。



相変わらず寝癖は直っていないし、身だしなみもいまいちの、いつもの平木くんだった。



だけど。



意識してしまう。



酔っていたとはいえ、覚えていないとはいえ、わたしは彼を自分から誘惑した(らしい)のだから。



しかも。



「本当はすごく寂しい」なんてことを、ぶちまけてしまうなんて。



ずっと見て見ぬふりをしてきた気持ちを、ぶちまけてしまうなんて。



明らかに、今までと違う目で彼を見ている自分に気づいていたし、いつの間にか平木くんを目で追っている自分にも、気づいていた。



仕事はてきぱきとこなす彼。



受話器口で頭を下げている彼。



机で突っ伏している彼。



社員食堂で牛丼を頬張っている彼。



女子社員と談笑している彼。



そして、わたしと会話している時の彼。



彼のすべてが愛しく思える。



そんな自分に、動揺した。


< 17 / 25 >

この作品をシェア

pagetop