『短編』しあわせの条件
夜、例の企画書を今週中に仕上げるために、わたしと平木くんは残業していた。
一人、また一人と帰宅していく中、わたしと平木くんのデスクだけがこうこうとライトで照らされている。
ふと時計を見ると、21時を回ったところだった。
「今日はこのくらいにしておこっか」
「そうですね」
そう言って、平木くんはうんっと伸びをした。
微妙な沈黙が流れる。
だだっ広いフロアには、もう二人しか残っていなかった。
二人きりだということに気づいたわたしは、
「ささ、帰ろ帰ろ」
と慌てて帰り支度を始めた。
彼と二人きりになるのが怖かった。
また、心をかき乱されてしまいそうだから。
その時だった。
突然、後ろからぎゅっと抱きしめられてしまった。
何が起こったのかわからず、体が固まってしまう。
首筋に、平木くんの顔があるのがわかった。