『短編』しあわせの条件
すると課長はとても慌てた様子で、
「専務が見たいって言ってるんだよ!」
と声を荒げた。
そして、チッと小さく舌打ちし「使えねぇな」と言い捨てた。
目の前の課長の言動が信じられず、唖然としていると、突っ伏していた平木くんが、むくっと身を起こし、
「それって〆切来週でしたよね?」
と、冷静に援護射撃してくれた。
その冷静さに課長も一瞬ひるんだが、
「急ぎなんだ」
と吐き捨て、フロアを出ていった。
嵐が去って、フロアに静けさが戻る。
……いったい。
いったい何だったのよ、あれは。
なんで怒鳴られなきゃいけないわけ?
こっちに非がなくても、気分悪いわ。
「気にすることないですよ」
平木くんが、ぼそっと呟いた。
ちらりと平木くんを見ると、
「僕は本当のこと言っただけですから」
と言って、わしゃわしゃと寝癖のついた頭を掻いた。
「……あり、がとう」
その時ちょうど昼休みが終わり、平木くんは何事もなかったかのようにパソコンに向かった。