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「そうだよ・・・三日前の事なんだけどね・・・。
志津の中から、その記憶だけが消え去ってる」
悠が笑いながら、服を着た。
そんな行動でさえ、見とれるほど格好いい。
「強く思うものほど、その記憶は消えやすい、って医者が言ってた」
「強く、思う?」
「そう。志津は俺の事を強く思ってくれてたんだ」
今度は、悠は嬉しそうに笑った。
「医者が、きっぱりと“記憶喪失”って言った時は、俺、ショックで死ぬかと思った」
悠が困ったように笑う。
「でも、志津はきっと思い出すよね・・・・?」
私は、思わずその視線を逸らしてしまった。
それから私は、悠の家を出て、今日は学校があるんだった、と思いながら、とぼとぼ家に帰る道を歩いていた。
もう、いいか。学校なんて。
どうせなら、悠の記憶の代わりに、学校の記憶が消えたら良かったのに。