東京空虚ラバーズ





アキラと最初に言葉を交わしたのは高校の入学式だった。

式と呼べるかもわからないいい加減で中途半端なそれが終わった後、僕は手持ち無沙汰になってなんとなく校内を徘徊していた。

入学式だからか校内に生徒は一人も居ず、がらんとしていて寂しげだった。


もう帰ろうかと踵を返して渡り廊下に差し掛かったときに、彼女を見つけた。

渡り廊下の真ん中で柵に背中を預けて立つ、一人の少女を。


空を眺めているように見えた。

手に、何かを持っていた。
手のひらサイズの黒くて四角い何か。アンテナが伸びていたから、ラジオだろうと思った。
それを片耳に近付けて、彼女は空を眺めていた。


自然と足が向いて、僕は彼女に近付いた。


「何を聴いてるの」

僕が話しかけると、彼女は驚いたのか弾かれたように振り返り、手に持っていたラジオを落とした。カン、とラジオが床とぶつかり音を立てる。


「ごめん」

驚かせてしまったことを申し訳なく思い、謝りながらラジオを拾った。手にしてみるとそれは予想よりもずっと小さく、ポケットにも入りそうなくらいで、とても軽かった。




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