東京空虚ラバーズ
そんな思い出話を隣を歩くアキラに話すと、彼女はころころと笑った。
「よく覚えてるね、千景くん。まあ、ボクも覚えてるけどさ」
「あのバンド、まだ聴いてるの?」
「ううん。あれはあの時偶然ラジオで流れてただけだもん」
初対面の時には想像もできなかった笑みを浮かべて、アキラは言う。
正義を探しに、などと言ってアキラは僕を学校の外に連れ出した。そのフレーズがあまりにあの時聴いた歌を彷彿とさせたものだから、なんとなくアキラについて来て、そして思い出話なんかをしてしまったわけだが、僕はまだアキラがどこに向かっているのかを知らない。
「ところでアキラ、一体どこに向かってるの」
問えば、当たり前のことのようにけろりとした答えが返ってくる。
「ボクらの正義に」
その言葉の意味が分からないと言っているのに。
アキラに気付かれないように小さく溜息を落として、彼女の横顔を盗み見る。
(……まあいっか)
珍しく生き生きしている彼女の瞳に、僕の今日は捧げることにした。