東京空虚ラバーズ
「正義?」
訝しげな表情でアキラを見る男性。
僕はアキラの突拍子もない行動に驚いて、目をぱちくりさせたまま二人を交互に見つめていた。
「はい。あなたの"正義"を教えてください」
怯むことなくアキラは問う。
男性は眉根を寄せて険しい顔をしながらも、少しの沈黙の後答えてくれた。
「私には守るべき家庭がある。仕事をして金を稼ぎ、家族を養うことが私の正義だ」
よれよれのスーツを着て、疲れを声に滲ませて、それでも彼は家族の為に働いていた。それが彼の正義。
「……そうですか、分かりました。引き止めてしまってごめんなさい。ありがとうございました」
静かにそう言って道を開けるアキラに、男性は小さな笑みを見せた。
「この町で"正義"なんて言葉を聞けるとは思わなかったよ」
フッと笑って、男性は僕たちの横を通り抜けた。