東京空虚ラバーズ
「……どういうこと? アキラ」
ちらりと横目で問うと、アキラはふう、と息を吐き出してから僕の方に身体を向けて答えた。
「ボクらの正義を探すんだから、まずは情報収集でしょ。いろんな人の"正義"、聞いてみようよ」
口元に笑みを携えた純粋な瞳でアキラは言う。まっすぐな声はどうしてか妙に説得力があって、僕は思わずゆるゆると頷いてしまっていた。
「さ、次行くよ」
何も言わない僕を置いて、アキラが早々に歩き出した。足取りは軽い。僕は自然とその足取りの後を追いかけた。
***
僕たちの正義探しは順調に進んだ。
というのも、今までまったく見せなかった社交性をアキラがここぞとばかりに遺憾なく発揮し、道行く人皆に躊躇無く問い続けたからだ。「あなたの正義ってなんですか?」と。
その答えは様々だった。アキラの問いにあからさまに嫌悪感を示し無言で歩き去る人ももちろんいたし、暴言を吐いてくる人もいた。しかし中には僕らに好意を示して丁寧に話をしてくれる人もいた。荒れ果てたこの町で、久しぶりに誰かの好意を見た気がする。
ある学生は言った。「人を殺すようなやつは殺せばいい」
ある主婦は言った。「幼い我が子を守ることだけが正義」
ある男性は言った。「警察こそ正義」
ある少年は言った。「悪いやつはヒーローが倒すんだ」
ある女性は言った。「そんなこと考えたこともない」
ある少女は言った。「よくわからない」
色々な答えを聞いた。それこそ、十人十色だった。
僕の頭は少し混乱していた。いろんな考えがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。