東京空虚ラバーズ
「千景くんか。良い名前だ」
優しい表情で紡がれる素直な褒め言葉に少し照れる。曖昧な笑みを返していると、アキラが様子を窺いつつ口を開いた。
「あのさ、おじいちゃん。今日はボク、おじいちゃんに訊きたい事があって来たんだ」
「そうかい」
店主は、その細く優しい瞳でアキラの言葉を促した。一呼吸置いてから、アキラは例の問いを口にした。
「おじいちゃんの"正義"って、何?」
まっすぐな瞳と瞳が、ぶつかる。印象的だったのは、縋るような色をしたアキラの瞳。何かに耐えているような、泣き出しそうな、それでいてまっすぐな、瞳。
店主はすぐには答えなかった。暫しの沈黙が僕たちを包む。しかし不思議と嫌な感じはしなかった。柔らかい、落ち着くような空気。埃っぽい店内に古本の匂いが混じる。
何度か小さな瞬きを繰り返した後、店主はゆっくり口を開いた。