東京空虚ラバーズ




「ボクさあ、捨て子なんだ」


それは唐突に。それはそれは唐突に。何の脈略も無く。平然とした顔でアキラは言った。そのまま受け流してしまいそうなほどさらりと。


「……そうなんだ」

やっとのことで言葉を搾り出す。

学校の屋上。僕らの溜まり場。今日も曇天。

寝転んだ僕の隣に足を投げ出した状態で座るアキラ。いつもと変わらないはず。なのに。昨日の古本屋の店主の話を聞いた後から、なんだかアキラの様子が変だった。口数が少ないのはいつものことだが、なんだか妙に塞ぎこんでいるような気がして。


「まだ赤ん坊だったボクを拾ったのは、十八歳の少年だったのさ」

いつもの口調。変わらない声。妙な違和感。


「想像できる? 今のボクらと同じ歳だよ。自分の生活だって危ういのに、赤の他人の子供を拾うなんて」

「まあ、僕だったらできないな」

率直に、感想を述べる。


「普通は、できないよ」

ちらりと横目でアキラの顔を見やる。唇を噛んで遠くを見つめるアキラは、なんだか急に大人びたように見えた。



< 26 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop