東京空虚ラバーズ
「ボクさあ、捨て子なんだ」
それは唐突に。それはそれは唐突に。何の脈略も無く。平然とした顔でアキラは言った。そのまま受け流してしまいそうなほどさらりと。
「……そうなんだ」
やっとのことで言葉を搾り出す。
学校の屋上。僕らの溜まり場。今日も曇天。
寝転んだ僕の隣に足を投げ出した状態で座るアキラ。いつもと変わらないはず。なのに。昨日の古本屋の店主の話を聞いた後から、なんだかアキラの様子が変だった。口数が少ないのはいつものことだが、なんだか妙に塞ぎこんでいるような気がして。
「まだ赤ん坊だったボクを拾ったのは、十八歳の少年だったのさ」
いつもの口調。変わらない声。妙な違和感。
「想像できる? 今のボクらと同じ歳だよ。自分の生活だって危ういのに、赤の他人の子供を拾うなんて」
「まあ、僕だったらできないな」
率直に、感想を述べる。
「普通は、できないよ」
ちらりと横目でアキラの顔を見やる。唇を噛んで遠くを見つめるアキラは、なんだか急に大人びたように見えた。