東京空虚ラバーズ
「何が哀しいの」
思ったことを問えば、アキラは皮肉ったような笑みを浮かべた。
「きっと、"正義"だったんだろうなって」
曇天の空を見上げるアキラ。
「父さんにとって、ボクを拾うことは正義だったんだ。そうしないと、自分の存在が、赦されなかったんだよ」
「……どういう意味」
すう、とアキラが息を吸う音が聞こえた。
「父さんも、捨てられたんだ」
空を見上げたまま、アキラは言葉を紡ぐ。
「父さんの両親は、高校に進学したばかりの父さんを残して、この町ごと、父さんを捨てた」
ぽつり。雨が、ひとしずく。
「ボクを拾うっていう行為は、父さんにとって、両親への意思表示だったんだ」
自らアキラを引き取ることでそれを"正義"とし、それによって自分を捨てた両親を"悪"とした。
「正義だけのために、アキラを引き取ったと思ってるの」
ぽつり。ぽつり。雨のしずく。
「千景くん、ボクは、」
曇天が泣く。
「悔しいんだよ」