東京空虚ラバーズ



本格的に降り出した雨から逃れるために校舎内に入った。屋上と扉一枚隔てたそこに座って、アキラは濡れた髪を梳かす。隣に座って、僕も髪に付いた雨水を落とすためにぶんぶんと頭を振った。


「冷たい」

僕の髪の雫が跳ねてしまったのだろう、アキラは頬を押さえて僕に抗議した。


「ああ、ごめん」

素直に謝ると、アキラは小さく「うん」と言って再び髪を梳き始めた。

様子を窺いつつ、僕は口を開く。


「そのお父さんとは、まだ一緒に暮らしてるの」

「うん。ずっと一緒」

けろりとした答えが返る。どうやら仲が悪いわけではないらしい。


「じゃあ、何が不満なの」

アキラが自分からこんなことを話すのは珍しかった。きっと何か聞いてほしいことがあるのだろう。

一瞬微かに顔を歪めてから、アキラは静かに口を開いた。


「……傷の、」

途切れ途切れに、アキラは話す。


「傷の、舐め合いに見えるんじゃないかと、思って」

アキラの髪から雫がぽたりと落ちた。


「傍から見たらきっと、ボクたちは、」

扉の向こうから、ザーザーと雨の降る音が聴こえる。


「互いの傷を舐め合う、淋しい親子だ」

その声は、どこまでも淋しく響いた。



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