東京空虚ラバーズ
アキラの顔は長い髪に隠れて見えない。
雨音の隙間を縫って、僕は言葉を紡いだ。
「……そうかな」
俯くアキラの頭がぴくりと動く。
「少なくとも僕には、父を愛する娘のただの独り言にしか聞こえないけど」
ドアに身体を凭れたままなんとはなしに言うと、アキラはふう、と小さく息を吐いて顔を上げた。
「あー、頭の中がぐちゃぐちゃだ」
先程までとは打って変わってハリのある声を出すアキラ。
「ごめんね、いきなり変なこと」
僕を振り返って見るアキラの顔は相変わらず無表情だったけど、少しだけ、雰囲気が柔らかくなったような気がした。
「……お父さんのこと、好きなんだ」
静かに問えば。
「……うん。大好き」
静かな答えが返ってくる。