東京空虚ラバーズ
久しぶりに授業を受けようと思い立ち、朝から教室で席に着いていた。一番左の列の後ろから二番目。いつも僕が座っている場所。
チャイムが鳴り響いてやがてばらばらと生徒が席に着き始める。先生が授業を始めるが、聞いている生徒は半分にも満たない。隣の席では大声で噂話が繰り広げられていた。
「えー? 何それ本当ー?」
「本当だって。私の友達が見たって言ってたの!」
「紙袋くんを?」
ぴくり、思わず耳が傾く。
「そう」
「でもそれ噂の紙袋くんとちょっと違うじゃない。誰かをボコボコに殴るなんて」
違和感。自然と眉根が寄る。
「でも原因は殴られた方にあったみたいよ? 煙草の吸殻を捨てただの何だので揉めてたみたいだって」
「でも、そこまでする必要あったのかなあ。その人、骨折までいっちゃったんでしょ?」
「そうみたいね」
違和感が確信に変わる。
一番右の列、一番前。その席に座っているアキラが丸い眼を僕に向けているのが見えた。彼女達の噂話が聞こえたのだろう。相変わらずの無表情ではあったが瞳は語っていた。「信じられない」と。
アキラと目を合わせたまま手に持っていた鉛筆をくいくい、と上に向ける。屋上で落ち合おう、というメッセージ。
隣の女生徒たちの噂話はそれからころころと変わり、やがてチャイムが鳴った。
アキラが席を立ったことを確認してから、同じように静かに席を立つ。