東京空虚ラバーズ
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ある日の帰り道だった。
紅く染まった西日が町を照らして、相変わらず乾いた風がふいていた。
誰も居ない道を歩く。ふと足元の何かに気付いた。汚れた紙袋。拾って広げてみると、そこにはなんとも間抜けな顔が描かれていた。まん丸の目に、だらしなく笑う口。目の部分にはご丁寧に穴が開けられている。きっと子供達がこれで遊んでいたのだろう。
特に何の考えも無く、その紙袋を被っていた。視界良好、音も聞こえる。
西日が僕を照らしていた。なんとなくノスタルジーを覚える。
嗚呼、この感覚はなんだろう。いつかの甘い記憶があふれ出すように、世界が真っ直ぐに見える。何も考えなかった、考えなくて良かったあの頃。世界はいつだって僕に正直だった。
声が聞こえた。次いで鈍く物騒な音。
振り返って見ればそこには一人の少年とそれに群がる少年。
足が向く。何も考えてはいなかった。そのときの僕にとって、そうすることはとても自然なことだった。
どうやらこの紙袋は、僕の声を聴かせてくれるらしい。
心の中の、正直な声を。
それからやがて僕は、"紙袋くん"と呼ばれるようになる。
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