東京空虚ラバーズ



「どこまで善人ぶるつもりなの、お前」

挑発のような言葉を投げかけられて、自然と眉根が寄る。


「こんな町で、こんな人間達に囲まれて! それでもお前は正義を欲した。それはお前が飢えているからだろう? 正義に、愛に、人々の感謝に!」

少年は一歩一歩を踏みしめながら僕に近付いた。


「お前は正義を貫こうとしながらも、リスクを背負わなかった。人が傷付けられるのは見過ごせないって顔をしながら、"正義の味方"と名乗るのが怖かったんだ。自分の力が及ばないときに責任を押し付けられるのがな」

じりじりと、僕と少年の間合いが詰まる。


「『どうして』、『正義の味方なのに』、『助けてくれるって言ったのに』。非難の声を浴びるのは誰だって怖い。でもだからこそヒーローってのは存在するんじゃないのか」

紙袋に開いた穴から、少年の光る瞳が見えた気がした。


「お前は確かに正義の味方じゃないよ」

少年の手が、僕の紙袋に伸びた。


「気まぐれに世の中を掻き回す、ただの臆病者だ」

ぐ、と少年の手に力が入る――――




「違うよ」


澄んだ声が聞こえた。




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