東京空虚ラバーズ
アキラが眉を寄せている。少年の迫力に圧されつつも、僕は意を決して口を開いた。
「……僕が正義の味方を名乗らなかったのは、」
少年の瞳が僕を捉える。
「アキラの言うとおり、自分の無力さを知ってたからだ。"紙袋くん"のすることはすべて自己満足でしかないと、解ってたからだよ」
「またそんな綺麗事っ……!」
「綺麗事だと思うなら、そう思ってくれて構わない。ただ、これだけは言わせてもらう。君のしていることは紛れも無い"暴力"だ」
ぐ、と少年が言い淀む。
「君の正義じゃ誰も救われない。町も、人も、君自身も」
ぎり、と少年が歯軋りをする音が聞こえた。
「紙袋を脱げ。君の正義は、誰も救わない」
瞬間、左から拳が飛んできた。
「千景くん!」
アキラの叫ぶ声が聞こえた。
間一髪で拳をかわし、後ろへ一歩下がる。少年は紙袋の中から僕を睨みつけていた。
「……アキラ。大丈夫だから下がってて」
アキラが唇を噛む。不安そうな表情をしながらも、眼だけは変わらず真っ直ぐだった。