東京空虚ラバーズ




「千景(ちかげ)、今日帰り遊んでいかねえ?」

昼休み、クラスの大半の生徒が帰り支度を始める。

学校なんてあってないようなもの、ひとつでも授業に出席すればその日の単位を得ることはできたし、学校に通わないからといって将来に影響するようなことは何もなかった。
この町の若者が自分の将来を考えることなんてなかった。どうせこの町の外には出られないのだから。


「いや、ごめん僕はいい」

「そうか。じゃあまた明日な」

「ああ、また」

誘いを断って数人の男子生徒の背中を見送る。姿が完全に見えなくなったことを確認してから僕は席を立った。
窓ガラスが何枚か割れたままの廊下を歩く。かかとを潰して履いている上履きがぱかぱかと鳴った。

廊下の突き当たりの階段を上る。壁の張り紙はところどころ破れたまま色褪せ、もう何が書いてあったかもわからない。階段を最後まで上りきったところで鉄の扉に出くわした。鍵がかかっている。
僕はポケットから合鍵を取り出し、鍵穴に差し込んでガチャリと開けた。

相変わらずの灰色の空。濁った空気に不快感が増す。

僕は迷わず扉の横に取り付けられたはしごに足をかけて上った。ここが、この学校で一番高い場所だった。



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