東京空虚ラバーズ
「わからないことがあるんだけど」
ニセ紙袋くんの一件が終わり、僕らはなんとはなしに町を歩いていた。
「なに?」
アキラが隣を歩きながら聞き返す。
「あの古本屋のおじいさんが言ったこと」
ポケットにしまってある紙袋の感触を確かめながら僕は言う。
「"自分を疑いなさい"って」
「ああ」
「あれ、どういうこと」
僕の問いに、アキラは遠くを見ながら答えた。
「もう同じ過ちを繰り返してほしくなかったんだと思うよ」
乾いた風が足元をくすぐった。
「あの頃当たり前になっていたことの内の多くが、きっと間違いだったんだよ。でも当時の人々はその間違いごと自分を信じてたんだ」
陽が傾いていた。オレンジ色の鋭い西日が僕らを照らす。
「だから、おじいちゃんはああ言ったんだと思う。自分の信じていることを疑ってみなさいって意味で」
アキラの説明はなんだか抽象的過ぎてよく分からなかったけれど、何かがすっと胸に落ちた気がした。