東京空虚ラバーズ
冷たいコンクリートに身体を預け仰向けになる。灰色の空と真正面に向かい合った。生ぬるい風が不気味なほど優しく頬を撫でたとき、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
その直後にガチャリ、と屋上の扉が開かれる音が聞こえた。
僕は動じることもなく仰向けのまま空を見る。どうせここに入ることが出来る人物は僕を除いたらたった一人しか居ないのだ。
「どうして誘いを断ったのさ、千景くん」
はしごを上ってひょいと顔を覗かせる彼女の名前はアキラ。漢字で書くと[陽]。太陽の[陽]でアキラ。なんとも洒落た名前だと僕は思っている。本人には言わないが。
「なんのこと」
彼女のほうを向きもせずに問う。
「友達の誘いを断ってたでしょ。授業に出るわけでもないくせに」
彼女の長く艶のある黒髪がいつの間にか視界の隅に入っていた。セーラー服のスカートの裾を気にしながら、彼女は僕の隣に両足を投げ出した格好で座った。
「行く気がしなかったから」
瞼を閉じて短く答える。