東京空虚ラバーズ
「せめてボクも君みたいに愛想良くなれたらなあ」
投げ出した足の先を交互に動かして遊びながらつまらなそうにアキラが言った。
「簡単だよ。ほら、笑ってみ」
アキラの側にしゃがみこんで顔を覗き込む。僕を見つめ返したアキラの顔は無表情そのもので、楽しみも悲しみも何も感じることができない顔だった。ただなんとなく分かるのは、僕に対して抱いている興味だけ。
「ほら」
アキラの両頬に手を添えて、ぐに、と掴む。そのまま両側に引っ張ってアキラの口角を上げようと試みた。
「これでいい、簡単だろ」
優しく手を放してフッと笑うと、アキラは掴まれた両頬に手を当ててすりすりと撫でた。
「善処するよ」
そんなことを言うアキラにもう一度微笑んでから立ち上がる。だらんと降ろした両手の行き場を求めてズボンのポケットに突っ込んだ。
「千景くんは、どうして愛想が良いの」
自ら両頬をぐにぐにと引っ張って口角を上げようと努力しながら、アキラは問いかけた。
「僕は愛想が好きなんだ」
工場から伸びるいくつもの煙を眺めて、僕はそう答えた。