不良の有岡について。

一瞬、視界が歪んだ。

でもそれは一瞬だけで、私はすぐに上へあがる階段へ足を進める。


「…誰?」


由比さんの潜めた声が耳に届く。

私の足は止まらずに、踊場に到達していた。


「…哀河?」


後ろから声がかけられた。私の名字だから、振り返る。


「はい?」

「…今の、見てた?」

「私、誰にも言いふらしたりしないから、心配しないで。」

「哀河。」


ひとつ下の踊場に居た有岡が、階段を上ってこっちまで来た。

そして、いつかしたように私を抱きしめる。


「話、聞いて欲しい。」



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