不良の有岡について。
「え?」
上げたその顔には、期待が溢れている。私は作り笑いを浮かべて外を指さす。
弟はそっちを見て、鞄を持って教室を出て行こうとする。でも少し立ち止まって、私を見た。
「おねえちゃんは行かないの?」
「うん、行っといで。楽しんで行ってね。」
きょとんとしてから、良い返事をして出て行く。その小さな背中を見送る。
涙は出ない。
弟が選んだのなら、それが良い。
あんなに小さくとも、それは弟の人生なのだから。
ずるずると壁に寄りかかりながらしゃがむ。セダンのエンジンがかかって発車する音がした。
立ちあがる。よろめいて、壁に手をつくと同時に声が聞こえる。
「姉さん、」
「んーどうしたの?」
「今、哀河の弟が、」
聞き慣れた姉弟の声。