正義たるは偽善なり



「殺せよ…」



暗い暗い、闇の中で。


お互いにどんな顔をして、どんな状態にあるかも明確にわからない空間の中で、男は呟いた。


ただ解っているのは男の呼吸がずいぶんと荒いこと。


そこから推測されるのは、彼が回復不可能な痛手を負っている、もしくは病にあるということくらいか。


もうひとつ。


殺してくれ、なんていう希有な頼みごとをする相手の身分も、確証はないが男には予想がついていた。



「いきなり現れた人間に殺してくれだなんて…君、相当イッてますね」


「狂人扱いするんじゃねえよ…俺は、正規にも非正規にも関わらず消される身分なんだからよ」


見解は前者で決まりだ。


固い革靴の音を響かせながら男の傍に歩み寄ると、粘着質のある赤い液体が水たまりになっていた。



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