正義たるは偽善なり
「僕は人を殺しません」
彼は言った。
「死を望むこと即ち自殺者、死を与えること即ち殺人者、死を見せること即ち魔術師…帝国国教会に於いて禁忌とさるる項目です」
「重々、承知してる」
「僕はもう一つ犯してしまいました」
これは罪の告白だ。
何故今ここで。
耳を貸す気もなく、男は下らぬ彼の愚痴に付き合わされる気がして、死に際に後悔が募った。
「殺人者か」
「いいえ魔術師です」
「…は、聖書に伏し、王に跪く騎士が禁忌を犯しただなんて嗤い物だ」
「でも魔術師は更正され得る」
「…なんだと」
男は、ふざけたことを吐く彼の両眼を精いっぱい睨みつけた。
更正を許さなかったのは誰だ。
背徳者として魔術師を完全廃棄させているのは誰だ。
他でもない騎士団〈お前たち〉だ。