正義たるは偽善なり



「僕は人を殺しません」


彼は言った。



「死を望むこと即ち自殺者、死を与えること即ち殺人者、死を見せること即ち魔術師…帝国国教会に於いて禁忌とさるる項目です」


「重々、承知してる」


「僕はもう一つ犯してしまいました」




これは罪の告白だ。


何故今ここで。


耳を貸す気もなく、男は下らぬ彼の愚痴に付き合わされる気がして、死に際に後悔が募った。



「殺人者か」


「いいえ魔術師です」



「…は、聖書に伏し、王に跪く騎士が禁忌を犯しただなんて嗤い物だ」


「でも魔術師は更正され得る」


「…なんだと」



男は、ふざけたことを吐く彼の両眼を精いっぱい睨みつけた。


更正を許さなかったのは誰だ。


背徳者として魔術師を完全廃棄させているのは誰だ。


他でもない騎士団〈お前たち〉だ。




< 3 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop