正義たるは偽善なり
男の叫びが木霊して、至近距離にいた彼は思わず顔をしかめてしまった。
憐れむかのように、両眼は細められ、微かに水が碧を満たした。
「神に救われるからなんだ!
許されるからなんだ!
どうせは死を以て償わなければならない以上、俺は此処では救われない!
俺は…魔術師は生きている人間を救うために神に背いて魔術を行使したというのに、その人間に許されず殺されて、なお神に生きてなにになる!」
…有るのは、裏切られたという喪失感だけだ。
神が定めし摂理に背いてまで。
飢える子供のためにパンを出した。
苦しむ男のために傷を癒した。
嘆く老婆のために安らぎを与えた。
それでも『魔術である以上』魔術師は背徳者だ。
それは決して、『正義である』と王は言わなかった。
理由がどうあれ罪は罪。
ならば死して償え。
それが人間の間の法である。