正義たるは偽善なり



「だからどうか頷いてください。
生を望む生者として君の死を見送りたい。

僕に医術の教えはないし他に君の救済方法が思いつきませんから」



「…傲慢な、ことだ!
そしてなんて見苦しい、お前はそうまでして救われたいか」


「…いいえ、僕が救われるか否か、そんなことはどうでもいい、けれど」



一度言葉を切って、語るべきかを悩んだ。


こんなこと、どうでもいいことだ。


きっと彼には語る価値もなければ聞かせる意味もない。


けれど、偽善を正義と騙る愚か者と一緒にされたくはない。




「ただ恋人と一緒にいたいだけですよ」



判断を下す前に、言葉が意思を追い抜いた。


口にしてから後悔する。


しかし、まあ、どうでもよいのなら語っても不利益にはなるまいよ。



「彼女はとってもいい人です。
生者であり救済者である、まあ魔法使いではありませんがね。

罪人である以上そんな聖人と一緒にはいれませんから」


故に彼は、人を救う。


彼女の傍に居たいからで、それ以上求めているものなんてありはしない。



「だから僕は人を殺しません」



剣を持ちながら抜きはしない。


刺すのは人ではなく障害物のみと決めた。


更正しえない殺人者にならぬために。



嗚呼、だから。


彼もまた偽善者だ。


彼女が人を殺したのなら、きっと彼も殺すであろう。






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