片翼の天使たち~fastlove~
それより怖いもの。
それは“心無い人間”なんじゃないかって思う。
怒った人間
不機嫌な人間
それより怖いのは
平気で嘘を塗り固め、自分を偽る人間。
私の両親のような…。
「私…鍵っ子だからさ」
「鍵っ子?」
お金持ちの遥翔からしたら、聞いたこともない、無縁の世界だよ。
今まで誰にも、美羽にも話せなかったことを、私は自然と話していた。
「私の家、もともと両親の仲が良くなくてさ、2人とも仕事人間で。1年に1回家に帰ってくるか帰ってこないかってくらいなの。」
涙が目に溜まるのが分かる。
私、何話してんだろ…。
そう思うのに、止められない。
遥翔の大きな手が、私の震える手と重なった。
「いつも1人…。ずっと、ずっと…1人なの。」
哀しくない
寂しくない
私は、強い人間なんだ。
ずっと、そう自分に言い聞かせてきた。
寂しくないなんて、嘘だよ。
ホントは、泣いてしまいたいくらい怖いんだ。
誰かの温もりに触れたかった。
お母さんに、抱きしめてほしかった……。
でも私は、嫌われたくなかった。
両親に嫌われるのが嫌で、わがままなことは言わないようにしてた。
なるべく負担を少なく
良い子で生きることが、私に課せられた使命なのだと、何度も唱えてきた。
「サクラ……」
意図も簡単に…崩れていく……。
私が嫌いな
大っ嫌いな、親の権力に頼って生きてく、遥翔の体温で
今まで必死になって作りあげてきた、“井本桜羅”が崩れていく___。