片翼の天使たち~fastlove~





途中まで遥翔に送ってもらい、私は家に帰った。

…あれ?玄関の前に誰かいる?



黒い影があることに気づいた私。ゆっくり背後から近づく。

お母さんなわけがない、お父さんって言うのもありえないし、ありえてほしくない。
今さら会いたくない……。顔も見たくない。



唾を飲み込み、声をかけると



「桜羅、帰ってきた!」

「え、美羽!?」



制服姿のままの美羽だった。

なんだ…よかった。




「とりあえず入って」

「お邪魔します」



美羽を部屋へ招き入れると、相変わらず真っ暗で静かな空間が広がる。


帰ってくるわけがない。

もうこの家は、私しかいないも同然だ。




「オレンジジュースでいいかな」

「うん、ありがと」



キッチンへ向かい、オレンジジュースを2つのグラスに注ぎリビングへ戻る。
何から話そうか…。そんなことばかり考えていた。




「はい、オレンジジュース」




淡いピンク色のグラスを美羽に私、向かい側に座る。

1口飲んで美羽を見ると、明らかに美羽の視線は私のネクタイへ向いていた。




「…ホント、だったんだ」

「え……」

「桜羅が生徒会入ったって…先生が……」



美羽はもう、知っていたんだ。
ごめん、ごめんね…美羽。



「そ…っか……」



私はそれしか返せなかった。
返す言葉なんて見つからないよ……。



だって、普通科の私たちは特進クラスが大っ嫌いだったんだ。

なのに今は…たったの1日という時間で、私の居場所となったの。




「あのね、美羽…「いいよ!」



事情をすべて話そうとした私の震える声は、明るい美羽の声に遮られた。




「美羽ね、大丈夫よ。…桜羅が決めたことなんだもん。美羽はなにも言わない」




そう言うとニッコリ笑ってくれた。
美羽の優しさに涙が溢れだす。



こんなにも簡単に泣いてしまうのは

あの人たちと関わったから




優しさや温もり、笑顔が溢れるあの生徒会室で、私の想像していた汚いものなんて感じられなかった。




惨めさに涙がでる。


こんな気持ちをどう表していいのかもわからない





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