片翼の天使たち~fastlove~
キッと綺麗な特進クラスの校舎を睨みつけてから、私も美羽の後を追った。
教室に入ると、そこはいたって普通の高校と同じ光景なんだと思う。
友達とおしゃべりしたり、今日までの課題を大急ぎで映していたり。
お金持ちで澄まして、親の力で動く奴らより、こうしてバカでも騒がしいほうが落ち着く。
私はフッと口持ちを緩め、自分の席に座った。
カバンを机の横にかけ、突っ伏す。仲のいい子は美羽だけ。
その美羽も、男の子に囲まれて朝は動けない。
だから私はクラスで孤立するんだ。
元々、人付き合いはうまいほうじゃない。
話を合せて愛想笑いするのは苦手だし、ギャーギャー騒ぐのなんてもっと無理。
そんな自分を偽るなら、私は1人でいい。
困んないし、寂しくもない。
哀しくだって、辛くだってない……。
小さい頃から、1人には慣れてる。
今さら“寂しい”とか、そんな感情、持つ意味がない。
……あれ?
騒がしかった教室が、気づけばシン…っと静まり返っていた。
こんなのは初めてで、私は顔を上げた。
みんなの視線はドアのほうにむけられ、唖然としている。
「井本桜羅ってこのクラスか?」
私…?
「ちょっ、桜羅!!」
なに?
美羽が慌ててるなんて珍しい。私はクスッと笑ってからドアを見た。
……その途端、絶句してしまった。
だって、ドアに寄りかかって私を呼んでるのは……
私が嫌いな、“あいつ”
「…なん…で、」
驚きのあまり声が出ない。
足が、体が、固まってて動かない。
彼の綺麗な瞳に吸い込まれるように、私はあいつを見つめていた。
真っ黒な髪に端正で整いすぎてる顔。
長い手足に着崩された制服。
ゆるく結ばれた青いネクタイは普通科のリボンとは違うデザイン。
特進クラス1の問題児であり、生徒会長。
有名な大手企業、時枝財閥の御曹司…
時枝遥翔
(ときえ はると)
ここら辺では知らない人は無いだろう。
悪さばかりして、でも親が親だからなんでも許されてしまう、私が1番苦手とするタイプの人間。
「お前、ちょっと来いよ」
「は?え、ちょ…ヤダ!!」
腕を掴まれ廊下に引っ張り出される。さほど背の低くない私が見上げてしまうほどの長身の持ち主。
廊下に連れ出されるのが嫌で、美羽に助けを求めてみるも、こいつに逆らおうとする奴なんてこの学校ではまずいない。
きっと…私が初めてだったんだ。