片翼の天使たち~fastlove~
さかのぼること、2日前。
アルバイトしているときだった。
私が働いてるのはいたって普通の喫茶店。
まぁ、学校はアルバイト禁止だからこっそりだけど。
それでも頑張って働いてたんだ。
そんな中、聞きなれた嫌な声。
まさか……。そう思って振る帰ると、4~5人の男子グループ。
それは清明学園特進クラスの制服で、彼らは適当のドカッと椅子に腰かけた。
派手な外見のせいか、店員までも近寄りずらそうな雰囲気をかもしだしてる。
…仕方ない。
「お客様、ご注文うかがってもよろしいでしょうか?」
精一杯の笑顔。
時枝遥翔が嫌そうに私のほうを見た。
「ここはただのたまり場」
涼しげな顔でそう言った時枝。
たまり場?なんだそれ…。
鼻で笑い、あしらったこいつの顔が無性に腹立たしかった。
「…ご注文が決まったらお呼びください」
私がグッと怒りを堪え、厨房に戻ろうとした。…けど、
「こんなボロい店で飯なんか食えっかよ」
バカにしたような口調と便乗するようにドッと沸き出た笑い声。
イライラは限界だった。
未成年のくせして、カッコつけかどーかは知らないけど煙草を取り出す時枝の腕を、無意識に私は掴んでいた。
「あ?」
「通報しますよ」
「出来るもんならしてみろよ」
そのときの時枝の顔が「どうせ出来ないだろ?」って言われているようで。
「マスター、電話とってください」
私の1言に驚いたように、周りは静まり返り、時枝も煙草に火をつけようとした手を止めた。
予想していなかったんだろう…。
また、他のみんなと同じように私が引き下がると思ってたに違いない。
悪いけど、私はそこまで臆病に育ってきてない。
1人でいい。
1人でなんでもやってやる。
親の力なんて…、親なんて……肩書きだけなんでしょ?
「俺様への態度は気をつけろよ」
「…は?」
__一瞬、何が起こったのか分からなかった。
「俺に逆らうと、後で痛い目見るよ」
強引に重ねた私の唇を離し、艶美に時枝は笑った。
ヘナヘナと力が抜けて床に座り込む。
時枝たちのグループが店を出て行って、普段通りの雰囲気に戻ったけど、私の頭は混乱していた。
一瞬触れた唇に手を当て、顔に熱が溜まるのがわかる。
私……あいつに、キスされた___?
去り際に時枝が言った…「後で痛い目見るよ」のセリフ、今なら理解できる。
こいつは初めから知っていたんだ。
私が清明学園の生徒だってこと。