片翼の天使たち~fastlove~
「時枝」
「…遥翔」
「は?」
「遥翔って呼べよ。そしたら今日は帰してやる」
なにこいつ…。
私が名前で呼ばなかったら家に帰させないって言うの?
「…と」
「あぁ?聞こえねーな」
このやろー…。
「遥翔!!」
「帰るか、サクラ」
遥翔はそういうと、私の手をまた強引に掴み、生徒会室を後にした。
まるで、嵐のような人。
自由で、俺様で、わがままで、世間知らずなお坊ちゃま。
こういう奴、ホントムカつくのに……
“サクラ”って呼ばれた時の笑顔は、優しかった。
校舎をでて、すぐ目につく真っ黒い高級車。
こんな車で送り迎えされるのは……遥翔しかいない。
「乗れ」
「は!?」
「いいから乗れよ。つか、黙れ」
邪魔、そう言わんばかりに車に私を乗せた。
荷物みたいに扱うな。
「こんな車、普通は乗れねぇんだから感謝しろ」
「うっさい」
私、生徒会の秘書なんてやっていける気がしないんだけど。
ホントにこんな最低な会長の秘書なんてやんなきゃなんないの?
勘弁してよ…。体力持たないって……。
「お前家どこ?」
「そこのコンビニのすぐ横」
そう答えると、コンビニの前で車は止まった。
運転手さんにお礼を言いながら車を降りると、反対側のドアが閉まる音がした。
「なんであんたまで降りんのよ」
「いいだろ別に」
「すぐ近くだって」
「お前は女だろ?男に送らせとけばいいんだよ」
有無を言わさない、遥翔を取り巻く空気。
私はなにも言い返さず、「行くぞ」と言った遥翔について行った。
「あ、ここだから」
「ホントに近けーのな」
「だから言ったじゃん!」
「まだこんな時間だし、親に説明も必要だろ」
まだこんな時間…。
今は10時。本来なら私は、いつも通り授業を受けている時間帯だ。
「サボったって思われんのも嫌だろ」
遥翔なりに、気を使ってくれたんだろうか…。
だから送ってくれたんだ。
わざわざ私なんかのために、車を呼び出して。
でもね
「その心配はいらないんだ」
「なんでだよ」
露骨に嫌な顔をした遥翔。
インターホンを押そうとしていた手を止め、冷たく私を見下ろす。
怖くなんてなかった…。
私は1人という孤独の恐怖を知っているから。