ショコラ~愛することが出来ない女~
「ほら、俺といると楽しいでしょう?」
「あはは、うん。そうね」
頷くことに、躊躇わなかった。
涙を見せないように、俯いたまま返事をする。
「楽しそうだわ」
自分から彼のスーツの襟もとに手を伸ばすと、了承の意図を感じ取ってか、彼はそのまま私を抱きしめた。
人の視線を感じる。
まだまだ人がいきかう時間だもの。当然か。
もし隆二くんに見られたら。
それを考えると体がこわばるけど、突き放すほどの勢いも持っていなかった。
人目を気にせず抱きしめてくるような情熱が、私は欲しかったのかも知れない。
自分の気持ちの方が大きいのには疲れてしまったから。
ドロドロになるほど愛してくれる人がここにいるなら、それに寄りかかってみてもいい?
「……うん、頑張ってやってみようか」
「康子さん?」
「ヒミツの恋愛を」
背中に手を伸ばして、抱きしめ返す。
彼が息を吸い込む音が耳元近くでしたかと思うと、耳たぶに唇が軽く触れる。