ショコラ~愛することが出来ない女~
そんなある日、廊下が一瞬ざわついて、私も気になって顔を上げるとひょっこりと顔を出したのはなんと社長だ。
「社長」
「桂木、ちょっと来い。庄司もだ」
私と庄司くんは顔を見合わせて首をすくめる。
どうも良くない話だということはなんとなくわかる。
社長の顔がいつもより厳しいから。
廊下に響くヒールの音がこんなに気になることもあまりない。
連れてこられた場所は社長室だ。
社長は、軽い話なら食堂で、仕事の話なら会議室でという主義だ。
社長室に連れてこられるのは、大概が叱責の場合。
嫌な予感がして、姿勢を正す。
窓の外を見ながら、私と庄司くんが並ぶのを待っていた社長が、振り向きざまに溜息をつく。
「単刀直入に聞くぞ。噂は本当か?」
「噂……ですか?」
庄司くんが怪訝そうな顔をする。
知らなかったんだろう。
噂話というものは、当事者からは遠いところで広がるものだ。
私だって、何となく会話の端々を不審に思った程度でしかないのだから。
「どんな噂ですか?」
庄司くんを遮るように自分から社長に向かっていく。
社長は眉間を押さえるようなしぐさをして溜息をつく。