ショコラ~愛することが出来ない女~

「あの子ならいろんな可能性あるかなって思って」

「詩子はウェイトレスに向いてるよ。あいつのお陰で『ショコラ』は客足が絶えない」

「でもそれって隆二くんと『ショコラ』だけのメリットじゃない?」

「康子さん!」


空気を切り裂くような鋭い口調で名前を呼ばれてたじろいでしまう。
思わず目をそらしてしまった。


「ご、ごめん。私が口出すことじゃないわね」

「いや。俺こそごめん。その話はやめようよ。
そうだ。甘いモンでも食べる? 持ち帰り用に売ろうかと思って、最近マカロンとか作ってんだけどさ」


一瞬気まずくなった空気を吹き飛ばすように隆二くんが厨房からお菓子の皿を取ってくる。


「はい」


彼の指がつまむ、ピンク色のマカロン。
可愛いお菓子と比べるとなんてゴツゴツとした、だけど魅惑的な長い指。

触りたい欲求が高まってきて、あわてて首を振る。

駄目だ。
目の前にいられると本能的に欲しくなる。

隆二くんは何か変なフェロモンでも発してるんだろうか。

欲しい。
あの指が、あの唇が。

自分のものにしたい。


彼の指先にあるそれをそのまま口で含むと、カリっと音をたてた後唾液で溶けていく。

唇に指が触れて、ぞくりとした快感が襲う。


「康子さ……」

「結婚するの」


欲望を断ち切るように、目を閉じて一言告げる。

息を呑むような音がした後、店内には沈黙が降り立った。

口の中のマカロンをすべて飲み込んだ後、ゆっくりと目を開けた。

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